バスールームでは、知らない男がシャワーを浴びている。
サイドテーブルの上には、ルームサービスで取った料理が、ほとんど手付かずで残っていた。白い皿の上には、挽肉料理を包んで食べるために、サンチュが置かれていた。
あたしは、ついこの前まで、このサンチュを外国からやって来た割に新しい野菜だと思っていた。でも最近、そうじゃないんだってわかった。別名「包み菜」とも呼ばれるサンチュは、日本古来のチシャという野菜なんだそうだ。
そんなど〜でもいい知識を、あたしはこんなホテルの部屋で知った。
この「シゴト」を始めたばかりの頃、相手の男がたまたま持ってた雑誌に書いてあったのだ。
あたしは、サンチュだけつまんで口に入れてみた。
苦かった。
いつものように男のコートから財布を出して、もう2万抜いた。あとは、このまま部屋を出て行くだけだ。なんもさせないで、5万になる。男はバカだ。
あたしは、サンチュを噛んで飲み干した。
苦かった。
苦かった。
急にすべてがバカバカしくなった。なんもかんもが嘘っぽく感じられた。
あたしは、5枚の札を床に放り投げ、残ったサンチュを全部口に入れて部屋を出た。
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