小料理

よ〜く噛んでお召し上がりくださいませ。
い…いそぎんちゃく
典子の兄は、水族館が好きだった。
月に一度は出掛けていた。
なかでも、いそぎんちゃくが好物だった。
 
小学校の頃、兄はいそぎんちゃくの真似をして妙な踊りを踊った。
それを見た先生が、ふざけ半分で町内のダンス大会に応募させた。
兄の踊りは、フラメンコの師匠に勝ち、一等賞に選ばれた。
 
審査委員長の米屋が言った。
「ほんとにタコそっくりでしたねえ」
イソギンチャクの兄は怒って米屋をなぐり倒した。
 
 
更新日時:
2003/12/12
あ…鯵の干物
交差点に、鯵の干物が一枚落ちていた。
典子は、それを見ても別に驚かなかった。
その干物は、それだけ堂々と落ちていたのだ。
ダンプが通っても、バスが通っても、ママチャリが通っても、飛脚が通っても、カラスが笑っても、まったく動じずに存在していた。
 
ついに典子は決心した。
―――この鯵の干物を拾っていこう。そして病気の兄に食べさせてあげよう。
 
しかし、その決心は果たせなかった。
鯵の干物は、路上にしっかり張り付いて取れなかったのである。
いや、既に、路上そのものになっていた。
 
更新日時:
2003/12/12

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Last Updated: 2010/4/8 Thu.

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